「ガキの頃からイカサマやってるんじゃ、ろくな大人にはならんな」
中森はそう言いながら、思い切りバットを横に振った。
バットはボールが入れてある金属製の網カゴに当たって、大きな音をたてた。
ミカはすくみ上がった。
「聞いているか?え?」中森はそう言いながら、バットをブンブン振り回した。
バットが至るところにガンガンぶつかった。
そのたびに壁や柱や床が砕け散る音が響いた。
ミカは動けなかった。
大人がこんなに本気で怒っているのを見るのは初めてだった。
殺される。と思った。
「だからお前は罰を受けなくてはいけない。覚悟しろ」
中森はそう言って、バットを上段に構えた。
本当に殺すつもりだ・・・ミカは確信した。
中森が力を溜めて、一気にバットを振り下ろした。
ミカは目を閉じた。
鈍い大きな音が響いた。
ミカは自分が「死んだ」と思った。
大人の中でさえ体の大きな中森先生がバットでめいいっぱい殴りつけたのだ。
死なないはずはない。
ミカはゆっくりと目を開いた。
死んでいなかった。
バットはミカの数センチ横の床に叩きつけられていた。
床のコンクリに”ひび"が入っていた。
「5時間目が始まったら、クラスの皆に『あれは嘘でした』と正直に言うんだ。
『イカサマでテレパシーではありません』と言ってあやまるんだ。わかったか?」
ミカは首が千切れるぐらい上下に振った。
「もし、それを実行しなかったり、この場のことを喋ったりしたら・・・今度は本当に、頭に振り下ろす」
ミカはさらに激しく頭を上下に振った。
中森はバットを乱暴に投げ捨てると、部屋を出て行った。
ミカはその場にヘナヘナと崩れ落ちた。
第七話へ
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