アキラがミカを追ってきていた。
ミカは廊下を必死で走るが、距離は確実に短くなっている。
今日は体育館で全校生徒が集まっている。
校舎には誰もいない。
うかつだった。ミカは自分のミスを悔やんだ。
角を曲がると、正面にバットを持った中森先生が立っていた。
ヒッ!
ミカが立ち止まると、後ろから追ってきていたアキラが猛烈な勢いで迫っていた。
ミカは大声で叫んだ。
力の限り大声で叫んだ。
しかし、なぜか声が出なかった。
大声で叫んでいるはずなのに、音として出なかった。
中森が言った。
「誰にも聞こえるもんか。お前の声は『無音発声』しかできなくなったんだよ」
そんなはずはない。
ミカは更に大声で叫んだが、音としては出なかった。
アキラが追いついた。
ミカは、廊下の隅に追い詰められた。
中森はバットの先端をコツコツと当ててにやにやと笑っていた。
アキラは獣のような目をして、口から涎を流していた。
アキラがミカに手を伸ばしてきた。
そして、ミカの首を絞め始めた。
ミカは無音発声さえも出せなくなった。
苦しい・・・。息が出来ない。
ミカはそのまま倒れこんだ。
アキラはそれでも手を離さない。
ミカに馬乗りになって、アキラは更に力を入れた。
ミカの頭上に中森が立った。
ミカを見下ろして、へらへら笑っていた。
ミカはなんとか脱出しようとしたが、アキラが上に乗っているので身動きができない。
苦しくて、もがくだけしかできない。
意識が朦朧としてきた。
頭上で、中森がバットを振り上げた。
中森はへらへら笑いをやめて、ミカの顔面に狙いを定めていた。
ヒッ!
初めてミカの口から声が漏れた。
中森は満身の力を込めて、バットをミカの顔面に振り下ろした。
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